2011, Feb.

坂あがりスカラシップ2010対象公演
マームとジプシー
『コドモもももも、森んなか』

コドモたちのちぐはぐなカラダとココロ、
それとすこしだけ、ミライ。

どこかの田舎街。幼い三姉妹。大人が作った街の片隅。
コドモたちは、自分たちだけの”住処”を作って遊んでいる。
幼少期から青年期までの数年間。居場所を求めて、壊された、コドモたちだけの話。

information

日時
2011年2月1日~2月7日(全11回)
会場
STスポット
作・演出
藤田貴大
出演
青柳いづみ
伊野香織
荻原綾
北川裕子
斎藤章子
高山玲子
とみやまあゆみ
召田実子
吉田聡子
大石将弘(ままごと)
大島怜也(PLUSTIC PLASTICS)
尾野島慎太朗
波佐谷聡
スタッフ
舞台監督:森山香緒梨 加藤唯
照明:吉成陽子
照明オペレーター:明石怜子
音響:角田里枝
宣伝美術:本橋若子
制作:林香菜
共催
坂あがりスカラシップ(急な坂スタジオ・のげシャーレ・STスポット)
協力
コツブ桃山城 NINGENDAYO. フォセット・コンシェルジュ PLUSTIC PLASTICS ままごと
主催
マームとジプシー
稽古
1月6日〜28日 急な坂スタジオ
仕込み
1月28日〜31日
本番
2月1日〜7日 STスポット

記憶も現在も、舞台んなか

 『コドモもももも、森んなか』はひとまずは喪われてしまったものを取り返そうとする話であると言える。喪われてしまったのは“モモ”という存在とそれに象徴されるこどもたち(の時間)である。“モモ”の不在をめぐって、針跳びするレコードのように執拗に繰り返されるリフレインは、その思いの強度が溢れさえすれば、すべては元通りになると言わんばかりだ。しかし、もちろんそれは叶えられず“モモ”がいない毎日が繰り返され、姉妹の姉は忘却に塗りつぶされるようにして町を出ていくことになるだろう。ただし、それだけであるならば、この作品は誰しもが記憶にある幼年時代を、もはやそれを取り戻すのが不可能としりつつも追憶する美しく甘やかでちょっとせつない佳品でしかない。喪われた過去といまここの現在との距離をほどほどに操作して「作品」とするような微温さを藤田貴大は採らない。過去と現在は「喪われたもの」として一挙に取り返されるのである。リフレインはそれが起こること自体によって、喪失を現前せしめる。“モモ”は存在したのに喪われたのではなく、いまここで喪われたものとしてのみ存在するのである。生それ自体は存在せず、ただ「再/生(再生)」のみが存在する。そもそも、この劇場には何もなかった。いまや“モモ”という不在をめぐるこの話こそが全体として不在なのだということを誰もが理解しているはずだ。つまり、われわれが観ているのはreplayこそがplayであるという演劇の原理をめぐる演劇なのだった。それを森という舞台のなかに美しく甘やかにせつなく封じ込めてみせた藤田貴大のみずみずしい才気が光る一編。

山本充(ユリイカ編集長)