2012, Mar.
2008年、京都と東京で大きな反響を起した木ノ下歌舞伎初の舞踊公演、『三番叟/娘道成寺』を横浜で再演。
杉原邦生演出の『三番叟』ときたまりのソロで贈る『娘道成寺』の豪華二本立て。
古典芸能屈指の大曲が、コンテンポラリーダンスとして現代に蘇る!
木ノ下裕一が『三番叟/娘道成寺』の公演に先駆けて、3週にわたって音声ガイダンスをお届けしました。歌舞伎が好きな方でも観たことのない方でも、誰にでも楽しめるわかりやすい解説をお楽しみください。
詳細
演出家・杉原邦生扮する“ワタナベマモル”なる人物のアナウンスが流れだすと同時に、舞台上を下手から上手へと、3人の男性がすり足で移動してゆく。アナウンスの内容は、『三番叟』という演目がどのような作品であるのかを、観客へと教えてくれる。あたかも、イヤホンガイドのように。どうやらこの作品は、神(あるいは神のような存在)に仕える3人の神聖な人物が、天下泰平・五穀豊穣などなどを祈るらしい。
木ノ下歌舞伎の『三番叟』では、翁・千載・三番叟の3人は、テクノに合わせて、金色の足袋に金色のスポーツシューズを履いて舞う。扇子と鈴の代わりに、チアリーダーのポンポンを持っている。独特の身体性を持つ3人のダンサーは、それぞれの特徴が顕著になるものの、実は“同じ振り”を舞っている。冒頭のアナウンスで、この作品がいかに儀式的・儀礼的なものであるかが、繰り返される。散りばめられたオマージュは、作品が本来もつ形式・ルールを壊すのではなく、歌舞伎へのリスペクトを超えて、木ノ下歌舞伎オリジナルの型へと昇華されてゆく。
それは、続けて上演される『娘道成寺』にも言えることだ。朱色のミニドレスをまとった、きたまりが、長唄に合わせて舞い始める。その小さな身体は、あどけない少女のようでもあり、まるで人形遣いに操られているようにも見える。後半、ドレスを脱ぎ棄てると、真っ白なキャミソールワンピース姿になる。観客を見据えながら、歩く様子は、少女から“女”へと姿を変えている。ラストシーン、きたまりの手には、鐘を吊るすための紅白の紐が握られている。娘道成寺という作品のモチーフや、名シーンが、きたまりの身体を通して、現在に提示される。
これは、木ノ下歌舞伎のすべての作品に言えるだろう。木ノ下裕一の歌舞伎への愛情は、溢れんばかりである。その愛情は単なるオマージュや、歌舞伎の現代化につながっているのではない。いま、ここでしか、生まれえない作品として、鮮やかに再生されるのだ。
鈴木竜一朗